Miscellany ペンギン見聞録/雑学

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ペンギン雑学



マカロニペンギン

名前の由来


マカロニペンギンの説明でよく目にするのは、名前はイギリスにあった洒落者の集う「マカロニクラブ」に由来するというもの。これをもう少し詳しく考えてみようと思います。

マカロニペンギンの「macaroni」は、もちろんあのイタリア料理の代名詞ともいえるパスタのマカロニと同じ単語です。

辞書を見てみると(文字の着色と訳はペンギン人による):


Concise Oxford English Dictionary
macaroni
1. a variety of pasta formed in narrow tubes.
2. an 18-century British dandy affecting Continental fashions.
--ORIGIN
C16: from Ital. maccaroni, pl. of maccarone, from late Gk makaria 'food made from barley'.

1. 細い管状に作られたパスタの一種
2. 大陸のファッションを装う18世紀イギリスの伊達男
――起源
16世紀:イタリア語 maccarone の複数形 maccaroni、語源はギリシア語で「大麦から作られた食物」を意味する makaria

macaroni penguin
a penguin with an orange crest, breeding on islands in the Antarctic. [Eudyptes chrysolophus.]
--ORIGIN
C19: so named because the orange crest was thought to resemble the hairstyle of the macaronies (see MACARONI in sense 2).

オレンジ色の冠羽を持つペンギン、南極海の島々に棲息する[学名 Eudyptes chrysolophus
――起源
19世紀:オレンジ色の冠羽がマカロニたちのヘアスタイルと似ているとされたことから名付けられた(macaroni の定義2を参照のこと)


つまり、macaroni という単語は、16世紀にパスタの意味で英語に入り、18世紀の「伊達男、洒落者」をも指すようになり、19世紀に新たに発見されたペンギンの種の英名として採用された、ということです。

この辞書の説明が100%正解とは限らないけど、少なくとも「マカロニが集まるクラブ」にちなんで命名されたというよりも、「マカロニ」に似ているからというほうがスッキリしていると思います。

18世紀のイカス男性ヘアスタイルといえば、カツラ。マカロニペンギンの冠羽は、当時流行のサイドにカールしたカツラに、似ているかな? ヘアスタイルに類似性が見いだせない人でも、あの冠羽がお洒落だということには賛成できると思います。

ここでちょっとマカロニクラブの説明を。The London Encyclopaedia (Macmillan, 1983)です。

1762年、 William Almack という人がロンドンの Pall Mall(ペルメル街) 50番地に Almack's Club を設立しました(1764年に2つに分裂)。この Almackの店舗では、さらにもう2つのクラブの会合が行われていました。その1つが The Macaroni(マカロニクラブ)だったのです。

The Macaroni は「a club for 'travelled young men with long curls and spying-glasses'」(’長くカールしたヘアスタイルと小型望遠鏡を身につけた旅行経験のある若い男性’のためのクラブ)で、ようするにマカロニな人々が集ったのですね。1764年から1772年まで存在しました。わりと短命。

なお、ここでいうクラブとは、資格審査ありのオール会員制クラブのことです。趣味やしばしば政治的見解を同じくする人々の仲良し団体です。独自の会合場所を持っている場合もあれば、特定の店舗で会合が行われることもありました。

さて、じゃあなぜ[マカロニ]=[洒落者、伊達男]なのかというと、ようするに、イタリアンがお洒落だったということです。

イギリスは長〜いあいだヨーロッパの辺境に位置する田舎でした。文化は、ファッションも美術も学問もすべて、大陸すなわちイタリアやフランスをお手本としておりました。

17世紀末〜18世紀になると、「グランドツアー」が上流階級で流行します。子弟(男の子)教育の仕上げとして、フランスからイタリアを半年から1年(もっとかも)かけて巡る大旅行をさせたのです。家庭教師同伴、召使い引き連れて、勉強かつ豪遊するのですね。

グランドツアーでは、イタリア、特にローマがはずせない目的地でした。古代の遺跡、ルネッサンスの本場、古典作品の現地を目で見る、という教養コースです。この旅行で、彼らは骨董品美術品のお土産はもちろん、ファッションやテイストも身につけて帰国したのでした。

それで、そうしたファッションを身につけた人たちが、[大陸−イタリア−イタリア名物]という連想で「マカロニ」と呼ばれたのでしょう。「ハイカラ野郎」という感じだったかも。

グランドツアーに行かない人たちもファッションとして真似をしたでしょうから、「マカロニ」人口は案外多かったかもしれません。

そういうわけで、19世紀イギリスの人々は、立派な冠羽を持つこのペンギンに「前世紀の伊達男」マカロニとう英語名を付けたのでした(たぶん)。


ついでに: イタリア製西部劇映画を意味する「マカロニ ウエスタン」は日本語です。

2005/08

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イニシャル・P

ペンギンブックス誕生秘話


1935年イギリス、ある町のオフィスに、ただ独り考えにふける男がいた。出版社取締役アレン・レイン。

彼には壮大な夢があった。安価なペーパーバックスの叢書を刊行し、誰もが手軽に良書を楽しめるようにしたい。そのためには、ネーミングが肝心だ。わかりやすく、親しみやすいものを。だが、何にすればいいのか。決まらなかった。

その時、女性秘書がやってきた。悩んでいる彼に、ひとこと、言った。「『ペンギン』は、どうでしょう。」

「ペンギン。」 レインはつぶやいた。「そうだ、ペンギンだ!」 ペンギンには、威厳ある軽みが感じられる。新しい叢書のコンセプトにぴったりだ。しかも、白黒印刷に都合がいい。

すぐさまオフィスボーイを呼んだ。「図案を、依頼してくれたまえ。」

1936年、Penguin は新会社としてスタートした。

その翌年。レインはある駅のブックコーナーに立っていた。誰かの言葉に、思わず振り向いた。「『ペリカン』は、ありますか?」 客が、店員に尋ねていた。

あきらかに、『ペンギン』の覚え間違いだった。だが、もし、ほんとうに他社が『ペリカン』を出版したら。紛らわしいネーミングだ。レインは、まだ存在せぬライバルに、脅威を覚えた。「我社が、『ペリカン』シリーズを、出す。」 こうして、歴史や社会、経済のシリーズが登場した。他社から出版された著作の、ペーパーバック版であった。

その後、ペンギンブックス社は、「P」で始まる鳥の名前でシリーズを展開する。ビジュアルな大判キング・ペンギン。子供向けに、パフィン。ターミガン、ペレグリン、ピーコック。ペーパーバックスの「P」でもあった。

1970年以降、ペンギンブックス社は所有者が替わった。合併による拡大と変革とが、次々にやってきた。

そうして、現在。ペンギングループは、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、インド、南アフリカについで、アイルランドにも進出。ペンギンは、世界制覇をなしとげたのである。

Pで始まる鳥たちは、いつのまにか姿を消していた。いま、ペンギンのカタログには、ペンギンとパフィンだけが、残されている。


Penguin/Pelican/Puffin(ツノメドリ)/Ptermigan(ライチョウ(pを発音しない))/
Peregrine
(−falcon、ハヤブサ)/Peacock(クジャク)

「威厳ある軽み」: "dignified flippancy"

Trade Name Origins, Adrian Room(NTC, 1982) 、Penguin
のHPなどを参考に、それっぽく脚色しました。


〜〜〜〜〜

ペンギンとペリカン。なんか「Pで始まる名前の、変わった鳥」という点で、共通ですよね。

お馴染みのペンギンマークは、右向きも左向きも使われています。さて、このペンギンのモデルは? 黒い頭部にある白三角が、キングペンギンのパッチに見えるんですけど。気になる人は、洋書売り場へGO!

ウェブのほうがいい人は、↓ ここに大きなマークが。
「Penguin Group」 http://www.penguin.com/

現在のマークは、設立当時から数えて3代目らしいです。最初のはわりとリアルっぽくて、やっぱりキングかも、という感じ。2代目はポップになって、頭部のパッチがなく、アデリーに見えます。そして現在のはまたキングのようですが、いかにも商標らしいデザインかと思います。

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見解の相違

ペンギンの背くらべ。高い順に並んでますが、1位のサイズはさておき、2位と3位以下との差に注目してみましょう。


左から、旭山動物園、名古屋港水族館(説明の白文字は島村による)。 右端は生ペンギン。

左2枚は、ペンギン展示場にあった解説ボード。青いイラストでは、キングとジェンツーとがほぼ同じ大きさに描かれています。

私としては左側の旭山説を支持したいと思います。(旭山のボードでも、チンストラップ、アデリー、ジェンツーはほぼ同じ大きさです。)

ところで、図鑑などで必ず「体長○cm」という記述に出くわします。この『体長』について、旭山動物園では手作り解説ポスターにより親切かつ明快に説明してました。

ペンギンの『体長』は、首を伸ばしてくちばしを上に向け、くちばしの先から尾の先までを測った長さだそうです。

たとえば、図鑑ではキングの『体長』は90cm とありますが、ふつうに立っているとき、『身長』は 70cm くらいだって。同じく、ジェンツーは体長 75cm、身長 50cm くらいと書いてありました。『身長』は、人間の場合と同じ測り方(頭高のことですね)。なるほど、見た目の印象と一致します。

(余談ですが、ここで言っている『体長』のことを、私は「全長」と呼ぶのだと思ってました〜。)

ジェンツー、チンストラップ、アデリーは尻尾が長いので、体長と身長との差が大きいのではないでしょうか?

名古屋港水族館のボードでは、一部『体長』の数値にあわせて『身長』的な図が描かれているものと想像されます。でも、ペンギンはものすごく伸び縮み(?)が激しいですから、この問題はなかなか難しいと思います。


また、旭山動物園にあった骨格の解説は、脚の構造について、「本物のペンギンを見たことがないのでしょうか」と、図鑑の『?な図』に鋭いツッコミ。「たぶん、愛情の問題だよ」と心でつぶやくペンギン人でございました。

本物のペンギンに目を奪われがちですが、見回してみると、いろんな発見があります。やっぱりペンギン巡りは楽しいですね!

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